開催レポート 暮らしの大学 Class:02 まちと家族 編

あれよあれよと時は過ぎ、気づけば12月も後半。今年も映画を通じてたくさんのご縁をいただくことができました。皆さま、本当にありがとうございました!

駆け抜ける日々を忘れぬうちに、年末までのひと時、遅ればせながらも下半期のイベントレポートを連続公開いたします。

第1弾は……今年も様々なプロジェクトに挑んだ中でも、最も力を注いだと言えるこちらの取り組み!

九州大学箱崎キャンパス旧工学部本館大講義室で映画上映と講義を行う「 暮らしの大学 」です。春から企画を開始したこの取り組みでは、5月と11月の2回のクラスを開催することができました。

この記事では、「 暮らしの大学 Class:02 まちと家族 編 」のイベント当日の様子と、後日行なったアンケート回答を合わせてレポートしていきます。

ご参加いただいた方はもちろん、ご来場が叶わなかった方も、どうぞお付き合いくださいませ!

暮らしの大学についての詳細はこちら

【 Class:01 あとつぎ 編 】
イベント情報リリース
映画と学びの場を作るにあたって考えたこと
開催レポート

【 Class:02 まちと家族 編 】
「 暮らしの大学 」コンセプト紹介ページ
企画紹介コラム
講師&上映作品紹介コラム

映画上映『 フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 』

11月の暮らしの大学【 Class:02 まちと家族 編 】では、映画『 フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 』を上映。

この映画は、徹底したこども視点で描かれる楽しく夢のような毎日と、その裏側で厳しさを増す貧困。親子とはなにか、豊かさとはなにか、優しさとは、正しさとは…。観る者に普遍的なテーマを投げかける作品でした。

以下、アンケートで届いた代表的な感想をご紹介。

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※※※ちなみに、本記事は映画のネタバレをたっぷりと含む内容に仕上がりましたので、何も知らずに映画を観たい!派の方は、作品をご覧になった後にお楽しみくださいませ!※※※
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(回し者ではありませんが本当におすすめの作品です)

©2017 FLORIDA PROJECT 2016 . LLC

〈 映画の感想 〉

・ヘイリー母子がいつ幸せを掴む
どんでん返しがあるかと
期待して観たが
予想外の内容に驚いた。
好きな映画。

・色々考えさせられる内容だった。
もっと隣の席の方と
感想を語り合う時間が欲しかった。

・ムーニーとジャンシーのラストシーンは
何度観ても心にグッとくる。

・最序盤で、ひどい母親で
可哀想なこども達だなと感じたのに、
映画が進むに連れて
母と子の深い絆や優しさ、
こども達の明るさに、
なぜか憎めない、
責められない思いが広がり
不思議とハッピーな感覚で
観ていました。

就労支援窓口?の人や
児童相談所?の人たちも、
もう一歩踏み込んで
寄り添うことはできないのか?
という思いも浮かびましたが、
その思いがあっても
制度やシステムがなければ
根本的な助けにはならことは、
モーテル支配人ボビーの
優しさがあったからこそ
感じられたことでした。 

(中略)また少し時間を置いてから
もう一度観てみたいです。
上映直後の様子

わかります〜!な、感想が沢山。みなさまありがとうございます!作品の中に埋め込まれた様々なギャップに複雑な思いを抱いた方が多かったようです。10分程のディスカッションタイムには堰を切ったように話し出す方も。

もう一度観直したい、観賞後にもっと他者と話したい、という声の多い作品でもあり、対話の時間を多く取れなかったところは反省点!次回はたっぷり時間を確保できるよう、策を練りたいと思います。

ダイアローグ(対話)の時間

田北 雅裕先生による「 まち と 家族 」についての講義

映画を観終わった後は、九州大学大学院人間環境学研究院専任講師の田北 雅裕先生による講義を行なっていただきました。

田北 雅裕先生

田北先生は土木・空間設計を学ばれたのち、まちづくりの活動を経て、現在は里親普及や子ども支援の現場に向き合い、子ども家庭福祉の課題をデザインという発想で解決していく実践・研究に取り組んでいらっしゃる方です。

講義の司会は株式会社SAITO荒牧さん
福岡映画部 石渡より作品解説を行いました

講義の前には作品解説を行い、映画の概要やキャストインタビューをまとめたペーパーを元に、物語の背景などをお話ししました。

講義では、映画の内容を踏まえ、登場人物が置かれている状況やその社会背景・課題、そして、私たちが暮らすこのまちにも映画と同じ状況が存在している、という事実をお話しいただきました。

「 大学 」らしく、参加者の皆さまに意見発表をいただく一幕もあり。

「 ディズニーワールドの周りのモーテルが舞台という背景を知らずに、どこでどんでん返しがあるのかと思いながら観ていたけど、ラストにカタルシスがぎゅっと凝縮されていた。背景を知ってもう一度思い返すと、そこで暮らす人々の姿が見えてきて、今一度考えさせられている。 」

「 母親ヘイリーを取り巻く環境を考えれば、子どもに対してストレスを与えそうな気もするけど、それが凄いなというか、珍しいなというか…不思議な感じもした。 」

「 ( ストレスフルな )虐待とかになってもおかしくない状態で、あんなに明るく暮しているのはとても温かい親子関係だと思った。 」


といった感想を聞くこともできました。

講義に登場した主なトピックは次のような内容です。

〈 田北先生のお話 1/4 〉

・孤立した子どもの存在が
世の中に知られていない現状がある
(本作&是枝裕和監督作
『誰も知らない』を事例に)

・不適切な生育環境は
母親ヘイリーだけの責任なのか?
ニュースなどで家庭環境の問題が
取り沙汰される時、私たちの元に届くのは
不適切な状況になった「その時」だけ。
本作は、親を責めがちな私たちの気持ちが
感じられるように作られている。
「”まち”への眼差しをもって作品を観賞した。家族だけでなく第三者が関わってくることで保たれる家族の環境があるとするならば、それはまちの価値へと繋がってくるのではないか?」(株式会社SAITO 斉藤さん)
〈 田北先生のお話 2/4 〉

・(家族と「まち」のあり方を考えると)
映画は貧困率の高いフロリダが舞台だが
日本でも同じ状況が起こっている。
所得と世帯人口が減ったことで
家族の中だけで家族を支えることは
難しくなっている。
そんな今大切なのは、
家族を支える外部の存在。
今はもう、まち(全体)で
家族を支えないといけない。

・ただし、映画の中で
モーテルの管理人ボビーは
ちょっと一人で抱え込みすぎ。
現実のまちで、ああいった状況を
作らないためにも、
ポスト・ボビーのような存在が必要。

・ヘイリーがいる辛い状況を
繰り返さないためには
もっと早い段階に
(ヘイリー自身の子供時代とか)
周囲がどう守っていくか、
ということが必要。

・本作ではムーニーの
友達ジャンシーがキーマン。
ジャンシーは、
おばあちゃんに育てられているが、
おそらくこれまでの人生のどこかで、
児童家庭局がどういう所か?
を知る機会があったのではないか。
だからこそ、ヘイリーとムーニーが
今、どういう境遇に
あろうとしているのかということ
ことの重大さを
理解できていたではないか?
だからこそ、最後のシーンでは
スイッチが入り
走っていったのではないか?
「ジャンシーのお話でいうと、ムーニーと手をつなぐシーンが繰り返されていることが印象的だった。どのシーンでも雨や涙が流れた後に、二人が手を繋いでスクリーン奥へ向かっていく。その中で一番印象的なのは、やはりラストシーンだったのでは。」(福岡映画部 石渡)
〈 田北先生のお話 3/4 〉

・(ラストシーンの解釈について)
今回「まちと家族」というテーマに
本作を選んでもらったことは
すごく素晴らしいなと思っている。
最後に2人が手を繋いで
向かっていった先は
ラストまで作中で描かれていなかった
本物のディズニーワールド。
そこに向かうということは、
今まで訪れたことのない場所自体も、
彼女たちにとって
すごく重要なまちの風景だったということ。
子どもたちは、やはりまちの風景の中で
生きているということ。
ラストシーンに映画の本質と
伝えたいことが詰まっている。子供が虐待を受けると、
親が加害しているにも関わらず、
自分にとって大事な場所を
離れなくちゃいけないのは子ども。
「一時保護され施設に行く」
当たり前と思われているが、
これは子どもにとって
凄く影響が大きいこと。
この映画では、
親と離れることも
凄く悲しいことだけれど、
それと同時に、まちの風景も
子どもにとって凄くかけがえのない
ということもきちんと表現していた。

・ラストシーン、駆けていく2人を
背中から捉えている。
この映画は「行き先」を描いている。
しかし「帰る場所」や
「戻る場所」は描かれていない。
そこを描かないことによって、
「みんなでそこを考えようね」という、
作り手からの
メッセージかなという風に思う。
〈 田北先生のお話 4/4 〉

・映画を二度観てみてもらいたい。
二度目には、まちの風景と、
まちへの子ども達の想いが見えてくる。
家族とまちは
決して離れているものではなく、
家族の延長線上に
まちがあるということ。
まちの居場所が子どもたちにとって
かけがえのないものになっていく。

・ラストシーンで
ディズニーワールドにいく
ということに象徴されるが…
ディズニーワールドは楽しい場所。
楽しさというのは
本当に短い時間しか享受できないもの。
ムーニーたちは
ディズニーワールドの周りで
「真夏の魔法」のような
刺激的な一瞬の楽しさで
その場を紛らわせ
繋ぎながら生きていたが
そんな彼女たちには、
この後、安心して「戻る場所」がない。

・では、安心して「戻る場所」は
どういう風にして
作られていくものなのか?
それは新しい開発の時に
バッと、「楽しいもの」を
作るのではなく、
時間をかけて積み重ねないと
出来上がっていかないもの。
今、私たちが「戻る場所」を
持てているとするならば
それは、例えば、
自分が小さい時から
過ごした場所であったり
そのまちが積み重ねてきたもの
だったりする。
(「戻る場所」を作るには)
そういったことが重要。

・(「暮らしの大学」について)
取り組み内容を見せてもらった時
「歴史や文化をつなぐ」
という言葉が使われていた。
(特に箱崎で)歴史・文化というと
大きなものとして捉えられるが、
(暮らしの大学が目指しているものは)
要は、健やかに「おかえり」と言える
「戻る場所」を作っていくということ
なのではないかと思う。
箱崎という場所が積み重ねてきたものは
新しく作ろうと思っても作れないもの。
今後も長い時間をかけて対話を重ね、
いろんなまちの人と繋がりながら
形作っていく、そんな場になると
良いのではないかと思う。

それぞれの感想なども踏まえながら、計50分ほどの講義でしたが、田北先生の視点で語られる映画のお話はどこまでも興味深く。私たち自身も、もっともっと聴いてみたいと思う内容でした。

後日アンケートでも想いのこもった感想を複数いただきました。代表的なものをいくつかご紹介。

〈 講義の感想 〉

・自分とは違う講師の感想などが
聞けることがとても面白かった。

・解説を聞けて
映画を観て感じたことが整理され、
また新しい見方もでき、充実した。

・参加前は、町作りに貢献できる能力を
家族一人一人が底上げすることで
町の発展に結びついていくものかな。
と、考えていました。
ですが、参加後は少し怖くなりました。 
そもそも産まれてくる人口が
少なくなってきている中、
シングル家族でなくても
家族内での役割に
人員不足が発生していることで、
最小単位の社会である
家庭の運営が
成り立たなくなってきている現実。
知るだけで、何が出来るかまで
見出だせていませんが、
これからも考えていきたい課題だな
と感じました。

・実践者としての立場からの視点は
説得力があり良かった。

・時間がもう少し欲しいくらい
面白いものだった

映画はどこまでも個人的なものですが、沢山の人と空間・時間をともにすることや、分野の専門家のお話を聞くことで、一人で映画を観る時とは一味も二味も違った楽しみを感じていただけたのではないかと思います。

田北先生、素敵な講義をありがとうございました!

グラフィックレコーディング

また、会場では福岡映画部 梅崎の手で、講義と同時進行でグラフィックレコーディングが行われました。

イラストを用いた板書を行うグラフィックレコーディング

映画と講義だけでなく、「 グラフィックレコーディングがとても良かった! 」との声も沢山いただき大好評。2020年からは別プロジェクトで「 うめ先生 」としても活躍予定。乞うご期待です!

会場の魅力

そして、暮らしの大学の見どころは、映画と講義だけではありません。この旧工学部本館大講義室の趣深い空間はやっぱりとても魅力的。

九州大学で学んでいた、という方はもちろん、初めて来たという方も、どこかノスタルジーな雰囲気を楽しんでいただけたご様子。アンケートでも会場についての感想を沢山いただきました。

〈 会場の感想 〉

・九州大学で学んだ自分としては
大変懐かしくもあり、
また、テーブルランプや
窓などのしつらえも
味わい深く素敵な空間だと思います。

・歴史を感じられて心地よかった。
照明切れ、トイレ不足や
子供づれの配慮など、
もっと施設が整えばよい。

・机があって資料を置けてよかった

・レトロでオシャレ

・大学の講堂という凛とした雰囲気の中、
普段の生活では
なかなか引っかかってこない
素敵な映画と出会えたことや、
映画を見た他者の
様々な意見・感想などを聞くことができて
自分自身の新たな気づきにつながりました。
大変有意義な時間を
ありがとうございました。

キャンパスが伊都に移転してからは、ほとんど使われなくなった大講義室。メンテナンスや設備の面でご不便おかけした点を申し訳なく思いつつも…。少しずつ、場の活用の可能性が広がっていくことで、この素敵な空間が大切に守られていくといいなと思います。

最後はみんなでハイ、チ〜ズ!

田北先生、パートナー企業のみなさま、運営チームのみなさま、そしてなによりご来場いただいた皆さま、本当にありがとうございました。

次回も、より一層楽しい映画と学びの場づくりにチャレンジしていきたいと思いますので、どうぞお楽しみに。

最後までレポートを読んでくださったあなたにもお礼を。
お付き合いいただき、ありがとうございました!

【 開催概要 】
日時|2019年11月4日(月・祝)
会場|九州大学 箱崎キャンパス跡地
   近代建築物活用ゾーン 旧工学部本館1F 大講義室
主催|暮らしの大学 [ ハコと場をつくる 株式会社SAITO・福岡映画部 ]
パートナー|西部ガス  
協力|九州大学 

イベントや福岡映画部の活動についてのお問い合わせはこちらから
fukuokaeigabu@gmail.com

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